こらない

2009-02-27(金)

NHKスペシャル「うつ病治療 常識が変わる」を見た

NHKスペシャル「うつ病治療 常識が変わる」を見た。
「うつ病」の新しい情報ではなく、「うつ病治療」の話。

大きくは、「抗うつ薬の見直し」と「心理療法」といったところかな。
あと、磁気刺激療法等の新しい治療方法の紹介が少しだけ。
全体的に、それほど新しい知見が紹介されたようには見えなかったのだけど、それはアタシがこれまでのうつ病治療に関する情報をあまり詳しく知らなかったからかも。

まず現在の数字。

  • 日本のうつ病患者は100万人越え。
  • 50%が再発。
  • 25%は治療に2年以上。

アタシは、心理学科卒ということもあってか、心の病と聞くと臨床心理学的なことを考えがち。
けど、以前精神科医の知人と話した際に、「現在はそんなアプローチはほとんどない」と聞いてちょっと驚いた。
脳や神経の仕組みを調べて、それらを抑えたり活性化させたりという「薬でどうこうする」方向、だと。
そうだとすると、番組の後半で紹介されていた「心理療法」からのアプローチというのが“目新しい”のかも。

番組で紹介されていたのはイギリスの事例。
うつ病かな? という人が最初に訪れるのは精神科的なところではなく、内科や婦人科等の別の科。
そういったところが入り口となって、うつ病の疑いがある場合は、国が運営する心理療法センターを紹介される。
そしてカウンセリング等が行われるのだけど、番組によれば、そこで行われるのは、“傾聴”が重視される日本のカウンセリングとは違って、認知行動療法が取られる、と。
番組での印象から簡単にまとめると、日本は「ただただどんどん聞く」のに対し、イギリスでは「どんどん尋ねる」形式。

イギリスでは2年前に、抗うつ薬中心の治療を国をあげて見直し、心理面から治す方向へ舵をきったらしい。
それにより、再発率は、抗うつ薬のみの時の44%から、27%に減った、とのこと。
また昨年2008年からは、300億円をかけた支援策を実施していて、3年間で3,600人の心理士を養成しようとしているみたい。

日本はこういう方面はまったく完全に遅れていて、そもそも臨床心理士の資格は、国家資格でさえない。
アタシが勝手に何か協会を立ち上げて、適当に「資格」を発行するのと、形の上では変わらない、という状況。
当然、カウンセリング等には保険は効かない。
番組では、1回のカウンセリングを6,300円でやっているクリニックが映っていたけど、それは相当安い部類だと思う。

以上は、番組後半の話。
前半は、現在の日本の抗うつ薬の「害」の方の話。
違う、抗うつ薬の処方の害、か。
これが、アタシにはちょっとショックだった。

うつ病でクリニックに通うことに関して、「薬漬けにされるよ」なんて勝手な情報を与えてくる人がいるし実際にそういう情報を目にする。
それに対するアタシの考えは「そりゃあ日本全国の中には、そういう医院がないわけじゃないと思う。けど、これだけうつ病患者が多い中、医者だってそんなにたくさんの患者をさばき切れないだろうから、さっさと治って通院完了してもらいたいんじゃない?」。
つまり、「いんちきしてまで患者を縛り付けておく暇さえもないのでは?」と。
あと、多くの心の病に接している中で、悪意を持ってその患者を“騙す”なんてことは、そうそう出来ることではないんじゃないかな、という性善説的な考えもある。

けど、今回の番組を見る限り、実際の状況はかなり酷いみたい。
うつ病患者が次々に病院を変えるのを見ると、「つまり、自分にとって都合のいいことを言ってくれる先生を探してるだけでしょ?」的な見方をする人もいるんじゃないかと思うのだけど、現状は「あちこちの病院でいろんな先生に診てもらう」のが正解っぽい。

番組で紹介されていた事例では、5つの病院で同じ症状を伝えたにも関わらず、処方された薬の種類も量も、まったく違っていた。
これをうつ病の専門医に知らせると、こんな例はいくらでもある、もっと酷い例もいくらでも紹介できます、と。

机と椅子さえあれば開業できるメンタルクリニックは、現在爆発的に増えてるらしい。
それに伴い、東京都内の保健所には、治療に関する苦情も多く寄せられているとのこと。
番組では、取材にあたった記者がわざわざ出てきて、「取材中、『うつ病患者は気分が落ち込んでて、文句言わないからね』みたいな暴言も聞かれた」、と怒りをあらわに。
ちなみに、現在の日本の制度では、大学で専門に学んでいなくても「精神科医」を標榜することは可能とのこと。

そもそも、初回に処方する抗うつ薬は1種類であるべきじゃないか、と。
それぞれの薬に、それぞれの効果と副作用があるが、それはその薬を単体で使った場合のもの。
どんどん増やして有効、なんていうデータはない、と。

「確かに。そもそも最初から複数の薬を服用したら、副作用が出た時に、どの薬の副作用か分からないですよね?」とパネラ。

「最初からたくさんの薬を出す医者はおかしい(あやしい)」なんてのは昔からよく耳にするけど、うつ病に関しては本当にそうみたい。

あと、抗うつ薬、いわゆるSSRIを使うとセロトニンが増えるわけだけど、セロトニンが増えすぎるとドーパミンが減ってしまうらしい。
そうすると無気力になっちゃう。
それがまたうつ状態と誤解されて、さらに薬が増える、という悪循環も起こってる、と番組は指摘。

そういうわけで、たくさんの薬を服み続けている患者の場合は、まず一度それを取り除かないと、本来の本当の病気の症状が見えにくくなってるらしい。
実際に杏林大学病院では、そうやって薬の処方を見直すことで、多くの“長期患者”を快方に向かわせているようで、番組でも何例か紹介していました。

ここまででもがっかりだったのだけど、さらに誤診も多いらしい。
これは米国での数字だけど、双極性障害の37%がうつ病と誤診されていた、と。
双極性障害って何かと思ったら、躁うつ病のこと。
うつ病と躁うつ病では、かなり違うらしく、薬も違う、と。

番組でまとめていた「こんなクリニックはおかしい」は、以下の5点。

  • 薬の処方や副作用について説明しない
  • いきなり3種類以上の抗うつ薬を出す
  • 薬がどんどん増える
  • 薬について質問すると不機嫌になる
  • 薬以外の対応法を知らないようだ

というわけで、再度まとめると、「イギリスの心理療法」の話と「病院は慎重に選べ」という内容だったわけだけど、さて。
これ、うつ病の人が見たら、ただただ不安が増すんじゃないだろか。
だって、素人には判断できないよ。

「自分が処方されている薬が妥当かどうか不安なので、一緒に受診して先生の話を聞いて欲しい」ということで、うつ病と診断された人と一緒に診察を受けたことがあるのだけど、そんなことを云われても、やっぱりアタシにも判断できない。
それこそ、顔付きとか声から判断しそうになるわけで、そんなの全く判断基準にはならないわけで(詐欺師の方が患者を安心させるのは上手だと思う)。

ただでも、とにかく症状が長期化している人、薬があまりにも多いと感じている人は、別の医院にも浮気してみるべき、というのは、今回の番組を見る限りは正しそう。

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